N°39 - 沈黙のバラ LA ROSE, LA FLEUR, SE3

バラにはどんな意味があるのでしょうか。バラ窓、ピンク色、バラ色の人生、キリスト教、薔薇十字団......

エディット・ピアフ Édith Piaf のシャンソン、『バラ色の人生』"La Vie en rose" は、ちゃんと聴いたのは今が初めてなのですが、このリズムというか雰囲気はもう今の時代では表現できないですね。大恋愛をしたことがある人は薔薇色という表現に共感すると思います。楽観的で幸福感あふれる状態。初めて恋人ができたときはそれはもう本当に世界が輝いて見えました。それまでが灰色だったから余計でしょう。誰にでも簡単に優しさを振りまけるような気がしたし、目に映る通りがかりの全ての人々や景色が優しさと愛に満ち溢れているかのように見えました。魔法にかかりました。世界はなにも変わっていないのに、私の観察の仕方が変わったのです。愛の讃歌 Hymne à l’amour』を初めて聞いたときには涙が出ました。あまりに壮大で。安全な浅瀬でチャプチャプしただけの愛じゃ得られない境地ですからね。愛は贈り物です。(ある愛王の言葉があります: 泳げてんじゃん、溺れてみろよ)*1

この流れは、セリーヌ・ディオンMy Heart Will Go On』に続きます。英語圏では "Til death do us part" 死が二人を分かつまで という言葉が有名なようです。最近だとコートニー・カーダシアン Kourtney Kardashian がこの言葉と共にラブラブな様子で結婚を報告しました。そこで知ったのですが。しかしこの歌詞では死後も変わらぬ愛を貫きます。「死が愛を分かつ」のが当たり前となっているのがフリになっているのですね。
  • ここで、タロット・カードの配列や図像のインスピレーションになったかもしれない、14世紀イタリアの詩人フランチェスコ・ペトラルカ Francesco Petrarca 『トリオンフィ』(伊: Trionfi - Wikipedia 英:"Triumphs" Link here)*2 の歌集を思い出しました。15世紀イタリアで人気だった『トライアンフ(凱旋)』(ラテン語: Triumphs) の寓意はどの順番だったか? 写真に撮っておいた本を参照しますと、全部で6部あり、愛」、「純潔」、「死」、「名声」、「時」、「永遠」*3 の順で、後の者が前の者を打ち倒します。このシークエンス。そしてここで見ても伝統的に愛は死によって滅びることがヨーロッパの共通認識であったことがわかります。輪廻転生とか来世の概念はないですもんね。
この曲は薔薇と関係ないかと思ったけど、映画『タイタニック』のヒロインの名はローズでした! 真実の愛のイメージとローズは切っても切り離せないようですこの映画も大好きで、だけど私はディカプリオ演じる主人公ジャックよりも、このときのビリー・ゼイン演じるキャルの顔の方が断然好みでした。役は置いといて、色気が!

それにしても誰も彼もが歌えるわけではない曲なわけで、セリーヌがフランス系カナダ人、フランス語が公用語の地域出身なのは運命的ですよね。フランス人は英語を使いたがらないと言いますが、彼女は英語もフランス語もできるのですから。そう考えると、サン=テグジュペリは亡命先のアメリカで子どもに向けて筆を取ります。まあ明らかに大人にも向けているのですが、英訳されることを想定していますからフランスだけでなく英語圏でも共有される薔薇への価値観を取り入れたでしょうか? それともあくまでフランス色強めにしたのでしょうか。(彼は英語に極めて消極的だった)

薔薇にまつわる諺や慣用句はたくさんあります。
"There's no rose without a thorn" ,棘のないバラはない」 または世に完全な幸福はないの意味。フランスでは誰にでも弱点があるという意味だとWikiにありました。これが本当なら英語とフランス語で捉え方が異なりますね。

えっ、ということはバラが誇らしげに、かわいらしく見せたトゲは「弱点」の意味を持つのかもしれません。ここも好きな場面です:

  そんなわけで、心配性で空威張りの花のために、王子さまはすぐに心を悩ますことになったのです。ある日などは、自分の茎についた4つのトゲのことを話に出すと、花は王子さまにこう言いました。
「来てもいいですわ、トラが、鋭い爪を立てて」
「ぼくの星には、トラなんかいませんよ」と王子さまは言い返しました。「それにですよ、トラは草なんか食べません」
「わたくし、草なんかじゃありませんことよ」と花は落ち着きはらって応じました。
「申し訳ありません......」
「トラなんかちっとも怖くありませんわ。でも、こんなに風があるのはいやになってしまう。衝立はありませんこと?」

バラについて「心配性で空威張り」の性格とあります。トラが来ないにしてもトゲだけでは弱々しいのは確かです。だけど彼女は気高いので強がってしまいます。私にも獅子座があるので分かります。大丈夫じゃないときに大丈夫と言ったり。それでいて大丈夫じゃないと察してくれることを期待するのです。何故トラなのか。トラの存在を二人は知っているのですね。モンスターや残酷さの象徴なのか?「嫉妬に狂った」"jaloux comme un tigre" と表現するときに虎という単語を使うことと関係あるのか?

花は美しいけれども儚いものの象徴です
王子もまた、パイロットからしたら儚くて危なっかしい存在ですが、その王子から見たら薔薇はもっと儚い美です。つまりは作品の中で最も脆くて美しい存在はバラでしょう。

サン=テグジュペリの著書『人間の大地』にて明かされた、彼が出会った「実在の王子」は、純粋無垢な美しい子どもの寝顔でした。フランスから追われ、祖国に戻る途中の疲れ切ったポーランド人労働者が乗る3等車で見つけた一人の赤子。その夫婦を「貧しさ、汚さ、醜さ」と形容した上で、「まるで粘土の塊のようだった」とさえ言い放ちます。それに比べてこの夫婦の間で眠る赤子は次のように形容されます:

(前略) ああ! なんと愛らしい顔だこと! この夫婦から、一種の黄金の果実が生まれた。ぼろ着をまとった鈍重な二人から、魅力と気品の傑作が生まれたのだ。わたしはそのなめらかな額、かわいらしくとがらせた口元をのぞき込み、こう思った。これぞ音楽家の顔、これぞ子どものモーツァルト、すばらしい人生の約束だ。まさに伝説の中のちいさな王子といったふうではないか。保護され、世話され、教養を授けられたなら、この子は何にだってなれるだろう! 庭に突然変異で新種のバラが生まれれば、庭師たちはみな胸を踊らせる。そのバラは隔離され、培養され、大切にされる、だが、人間には庭師はいない。子どものモーツァルトは、ほかの子どもたちと同じようにプレス機にかけられるだろう。モーツァルトはカフェコンセールの悪臭の中で聴く腐った音楽を最大の喜びとするようになるだろう。モーツァルトは死を宣告されている。

笑っちゃうほど酷い言いようです。ここが『星の王子さま Le Petit Prince 』に関わりがないはずがありません。the Little Prince, つまり原題のように小さな王子と言っているし、突然変異のバラはまさしく王子が愛したあの「バラ」に他ならないでしょう。衝立を必要とする保護され大切にされるべきバラと重なります。
前回 N°37 でも言ったように、彼の中で「美」は「脆さ」とも密接に関わるように思います。ここで彼のDSCの度数が魚座7度であることを思い出してください。「岩の上に横たわっている十字架」というサビアン・シンボルは、人間から神性が失われているとも読めます。この十字架は忘れ去られていて、吹きっさらしで放置されています。
そしてこの「粘土」には意味があります。創世記で神が人間を作る前の土を示唆していて、神の息吹(=精神)が通っていない、魂のない、soullessな人間、というか「人間ならざるもの」ぐらいの意味を持たせていると思います。(まだテキストの1章しか読んでないので...)
当然のことながら、この「黄金の果実」は『パリスの審判』の神話に出てくる、「最も美しい女神に」捧げられた黄金の林檎を思わせます。彼は美しいものにめっぽう弱いのですね。

他にもwikiで薔薇にまつわるものとして見つけたのは:

"ラテン語Sub rosa『スブ・ロサー』: 英語under the roseバラの下でという昔のフレーズ。「秘密に、こっそりと、内緒で」という意味。ローマ神話などで沈黙の神ハルポクラテスへの贈り物にバラが用いられたという神話が由来で「秘密をバラさないこと」を示すシンボルになった......

ここが日本語で偶然シャレになっているのがおもしろいですね。聞いたことのない神だ。ハルポクラテス(Harpocrates)は、古代エジプトのホルス神(Horus)をギリシャ化したものだそうです。ホルスは天空神だけど他の神々と合体することも多く、色々な姿で描かれるとそれぞれの役割を持つので複雑です。太陽神ラーと同一視されたり、日の出や復活の象徴とみなされもしました。ファラオは基本的にホルスの生まれ変わりとされるだとか。とにかくめちゃんこ大事な偉大な神ですね。この中で『指を咥えた子どものホルス』バージョンがあって、指を咥えているのはヒエログリフにおける「子ども」を指していることに由来するのだけど、ギリシャやローマ人はそれを沈黙のポーズと勘違いしたようです。
こうした勘違いから始まって、バラは「秘密」のシンボルになったとのことです。先程の神話ではクピドが神に渡して、そのために母ヴィーナスの秘密は守られたのだと。それが後年キリスト教の告解式に繋がります。へー、面白い。じゃあ秘密結社にローズを入れがちなのは「秘教」の意味合いなのでしょうか? ロックバンドの名前に入れるのはなんでなんだろう。格好いいからと言ったら元も子もないけど。

......フランス語で、Découvrir le pot aux roses /
バラの鉢を発見する という慣用句は、
「真実の発見」を意味する"
 
ともありました。辞書では "to find out what is going on." あれ? 西洋絵画のアトリビュートではどうでしたっけ:

おそらく色々な解釈があると思いますが、私の知っているアトリビュートでは、薔薇は美と愛欲の女神ヴィーナスの持物とされます。ただし『棘のない薔薇』は「清純」を表し、聖母マリアを意味するそうです。花言葉(Floriography, language of flowers - 参考Link uk)でも愛情を示しますが、色や本数によって微妙に変わってきます。どの本を参照するか、更に日本だとまた違って解釈される傾向にあります。とある解釈では、赤い薔薇が愛情とともに「貞淑」をも意味するとあったのですが、おいおいそれは欲張りじゃねーかとも思いました笑。情熱的な愛と反しているような。only youってことでしょうか。

花言葉も実は好きです。だってヴィクトリア朝時代には実際に使われていたんですよ。凄くロマンチック! 一時期ジェイン・オースティンにハマっていたのも意味があるんですねきっと。フランスの貴族社会でも使われていました。Charlotte de La Tour の Le langage des fleurs (1819) は最初期に纏められた花言葉辞典で、イギリスでは Kate Greenaway が描いた挿絵 (Language of Flowers) が人気だと日本語wikiにありました。
私はこういう様々な「言葉ならざる言語」が好きなんですね。ああわかった、私の月のサビアン・シンボルが水瓶座27度「スミレで満たされた古代の陶器」だからです。どんどん個人情報を流出させていますが、スミレ(Sweet Violet)の花言葉は、節度(Modesty)らしいです。そうやってそれとなく感情や意思を伝えることを示す度数でそのままです。恥ずかしいですね。

ではこの辺で。もし加筆修正したなら最初の方に日付を書いておこうと思います。
(9/28 11:11 色と書体を変えました)

♥︎♥︎♥︎
  • *3 - 英: Love, Chastity, Death, Fame, Time, Eternity. 参照したのは伊泉龍一先生著の『タロット大全』だったと思います。『タロット占術大全』の方でしたらごめんなさい。手元になく図書館で2度借りたのでごっちゃになってます。これは個人的なメモですが、ジューン澁澤先生と共著の『リーディング・ザ・タロット』には載っていなかった。あとめっちゃ関係ないけど、変換できないから割と近年までいいずみって読んでいました。10年ぐらい。しぬww
    • 伊では、Amore, Pudicizia, Morte, Fama, Tempo, Eternità. 楽譜/音楽用語は大体イタリア語を使っているかと思いますが、テンポは時なんですね。なんかいいなと思います。
    • 全然関係ないのにアンミカさんの呪文を思い出しました笑。頭文字を取ってHLLSPDとまるで合成麻薬の名称みたいに呼ばれるやつ: ハッピー, ラッキー, ラブ, スマイル, ピース & ドリームです。参考までに。
  • *2 - リンク先とても綺麗な絵がたくさん載っている。
    • こういう絵が本当に好きです。心から。宗教画はとりわけ惹かれるのですが、キリスト教の『装飾写本』(wiki en - illuminated manuscript) とかうっとりします。カリグラフィーも綺麗。『時祷書』(wiki Book of hours, en, jp)もこの上なく好きです!!!! 写本の挿絵は『細密画』、フランス語で『ミニアチュール』miniature (wiki en)と呼ぶそうです。美しすぎる。
*1 - 私の好きなジョン・グリーンの小説『どこまでも亀』にも似た言葉があります。やっぱり愛は溺れるものなんだ笑: 
  • 英語は変で、愛することを in love という。これって愛という海で溺れかけているか、愛という街に住んでいるみたいで、愛以外、こんな言い方をしない。in friendship とか in anger とか in hope とか言わない。(中略) 感情の中にいるのがどんなものか、私は知ってる。そこに囲まれているだけじゃなくて、どっぷり浸かっている感じ。(後略) / p.157-158 "Turtles All the Way Down" by John Green
こうした、英語の表現を問い直す箇所はいくつかありますが、この話も星にまつわるので星に対しても一家言あります(以下の「けど」は原文で at least です): 
  • 僕たちはいつも、星の下にいると言う。もちろん、そんなわけがない。上も下もないんだから。星が僕たちを取り巻いている。だけど、僕たちは星の下にいると言う。これっていいなと思う。英語は人間を特権化するのが好きだ。人は who で受けて、動物は that で受けたりする――けど、星は人の上に置いてる / p.196
作中で最も優れている文章は――主人公の親友は『スター・ウォーズ』のファン・フィクションを書いているのですが、そこで「チューバッカは人間なのか」というテーマがあります。私は主人公同様この映画を観たことがないので外見以上のことを何も知りませんが、それを踏まえた言葉です:
  • 愛は悲劇でも過ちでもない。贈り物なんだって。最初の愛は忘れられない。なぜなら、それは教えてくれて、証明してくれるから。自分は愛すことができて、愛されることもできるということを。この世界で価値があるのは愛だけだ、愛があるからこそ人になれるし、愛があるからこそ人になる
♥︎♥︎♥︎
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