N°42 - 神が悪魔に打ち勝つ『塔』『神の家』のカード LA TORRE & LA MAISON DIEU, SE6
Oct.1
第5章、バオバブという「悪い種」は生長すると「教会の建物」サイズになると形容された。それは、一体なにを意味するのか。作者サン=テグジュペリが最も伝えたくて立派に描いた部分。前記事N°41の特に後半の続きです。
以下に、フランスの古いタロット・デッキ、マルセイユ版の『神の家』La Maison Dieu と呼ばれた「塔」のカードと、悪い木である「教会」との関連、考察を述べます。
「神の家」の解釈自体、多岐にわたります。他のカードと同様、正解/不正解ということはありません。一般に、「教会の腐敗」や「宗教の衰退」であるとか、人間の傲慢さなどで「神の怒り」に触れて「雷」が落とされる、「自分が予期しない衝撃的な変化が起こる」など様々です。マルセイユ版の「神の家」の図像では、「天から炎のようなもの」が落ち、それによって「3つ窓」がある塔が崩壊しています。さらに、建物から「二人の人物」と「王冠」が落下している、というものです。稲妻もまた、古いデッキで見られる伝統的な図像です。昔のデッキでは「稲妻」、「悪魔の家」、「天からの火」とも呼ばれていました。*7
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「ぼく」並びに作者は、わざわざ、生長したバオバブの大きさを「教会堂」で喩えています。一般的に教会は「バラの芽」側のはずです。教会は本来、「目に見えないもの」を大切にする場所でありました。しかしそれが悪い木として喩えられている。そこからまず考えられるのは、教会の腐敗。宗教の崩壊です。欲望がどんどん膨れ上がるように、バオバブは生長してしまう。やがて手遅れになると小惑星を破裂させる。「破裂」――、そう、まるで塔が「天の力」によって「裂かれるように」崩壊するが如く。タロットカードのフランス版の古いデッキ「マルセイユ」で「塔」のカードは「神の家」と呼ばれていました。正確には、La Maison Dieu で、of にあたる de はありません。
追記2: バオバブには年輪がないから樹齢を知るのは困難だが、数千年と言われるそう! わあ、これは間違いなく揶揄してるわ。
1) 実は同名の土地がフランスのニエーブル県にあることを私は知っています*1。このタイトルも初めて聞いたときからずっと気になっていた好きな言葉でした。私のブログのurlには house of god の文字が入っているのですよ。独 haus にしちゃいましたけどね。ちなみに il mondo つまり最後の大アルカナ21番の「世界」のカードの伊タイトルも好きなことからこのブログタイトルが名付けられています。
他にもHospital of Maison Dieu として1203年に設立された大変立派な中世建築の施設がイギリスのドーバーにあります。貧困者や聖地巡礼者や参拝者を収容できる慈善施設の病院です。つまり神の御許で保護された......神の家としてピッタリです。1534年、ヘンリー8世の国王至上法を受けて解体、宗教的な役割を終えました。*2
2) 先ほども言ったように、これは「教会の腐敗」や「信仰心の欠如」、「宗教の衰退」のように、教会が象徴する我々の「精神性」=「目に見えないもの」が、「大人社会」=「目に見えるものを重視すること」によって崩壊した様を表すのかもしれません。特にキリスト教は、それこそ「この地球上のあちこちに芽を出し、根を張る」が如く、信徒や勢力を拡大していきました。そのやり方は褒められたものではありません。基本的にキリスト教は人間の「獣性」とみなしたものを肯定したがらないので、聖職者は禁欲となりますが、その反面、映画『スポットライト 世紀のスクープ』で見られたように神父による児童への性的虐待が報じられましたよね。そんなのは「氷山の一角」に過ぎないでしょう。おっと、偶然使ったにしては最適な表現でした。つまり「悪い種」はまだまだ放置されているのです。また、私はまだ観ていませんが、ローマ法王を選挙「コンクラーベ」で選出する舞台裏に迫った『教皇選挙』という映画も今年日本で公開されました。そこには熾烈な権力闘争があるのです。このように、本来の教えは、(基本的に正統な宗教であれば)、精神的に大切なことを説いていたものです。それが特に指導者の死後、教えが大きく変わったり、宗教を悪用するものがいたり、新しい突飛な解釈が生まれたり、権力を振りかざしたりする、そんな負の歴史を私たちは多く知っています。知りすぎるほど知りながら、それがとどまることを知りません。私が最近に画像保存したミームにはこうあります:
Buddha was not a Buddhist, Jesus was not a Christian, Muhammad was not a Muslim.
They were teachers who taught Love.
Love was their religion!
ブッダは仏教徒ではなかった。イエスはキリスト教徒ではなかった。ムハンマドはイスラム教徒ではなかった。彼らは「愛」を教えた先生だった。「愛」こそが彼らの宗教だったのだ!
あるいは、人々が「目に見えないもの」を軽視し続けた結果、本来持っていた神性や精神性を失って、つまり「神の家」= バオバブが野放しにされて、人々が手入れを怠って、「塔」や「種」が放置される=生長する。「星が消滅する」=大切な何かを失い、後悔したときにはもう遅いことを指し示すかもしれません。なんと、ここでも彼がDSCに持つ「岩の上に横たわっている十字架」とリンクしました。しつこいぐらいに。
3) 他には、「聖バルバラ」*3の説話が指摘されています(ラテン語で Sancta Barbara). これに関連するのは、塔の中に幽閉された美しい娘が出てくる話と聞けばお馴染みの、ディズニーの『塔の上のラプンツェル (Tangled)』。そのモデルとなったグリム童話『ラプンツェル』*3。更にその元ネタとなった、フランスの短編小説の主人公の名及びタイトルは「ちいさなパセリ」の意を持つ『Persinette』*4です。実はラプンツェルという名の野菜があるのです。先程から「種」の話をしてきましたからおもしろい繋がりですね。
さて、『聖バルバラ』の話に戻しましょう。彼女は、求婚者から遠ざけるために非キリスト教徒(つまり異教徒)の父によって「塔に幽閉された」美しい娘です。彼女はキリスト教に魅入られました。幽閉中にクリスチャンに改宗した彼女は、浴室の2つ窓を、キリスト教の教義である三位一体を模した「3つ窓」にしてほしいと懇願しますが、父に「激昂」され手を掛けられそうになります――と! そのとき、岩が2つに「裂け」、バルバラは一時的に脱出、難を逃れます。が、結局すったもんだの末に父に見つかり、身体を「火」で焼かれるなどの拷問を受けます。しかし翌朝、神のもたらした「奇跡」によって傷が癒えたのでした。12月4日、彼女は殉教しますが、その後父は(神の怒りに触れたかのように)天から落ちた「雷」に打たれて生き絶えるのです。いかがでしょう。数々のシンボリズムの共通点は。彼女は火など危険なものを扱う職業の守護聖人であり、塔から連想されるように弾薬庫の守護聖人でもあります。
では、童話『ラプンツェル』を見ていきます。これも驚きますよ。あるところに農家の夫婦がいて、待望の子どもを授かりました。身重のおかみさんは隣に住む魔法使いの畑に生えた野菜「ラプンツェル」が欲しくてたまらなくなり、なんやかんやあって夫に盗ませます。それをサラダにして食べたおかみさんは、これの「3倍」欲しいと懇願してまた盗ませますが、今度は魔法使いに見つかってしまいます。事情を聞いた魔法使いはこの野菜はいくらでも取っていいが、代わりにその子どもをよこすよう要求します。(最初からそのつもりで誘惑の魔法でもかけたんじゃないかと私は思いますが。だってわざわざ魔法使いを登場させてるんですよ)、その生まれた子は「ラプンツェル」と名付けられ即座に森の「塔に閉じ込められます」。成長した娘は、ひょんなことから出会った王子と恋に落ち、彼女の髪をロープのようにして塔に登らせ、毎夜、王子と性交します。やがて妊娠。それを知った魔法使いは「怒って」彼女の髪を切り、「塔から追い出します」。その後王子が塔を訪ねたときに、その切った髪束で登らせたあとで、「もうここにはいないよ」と告げます。絶望した王子は塔から「身を投げ」、(つまり「王冠」も!) 命は助かったものの、植物のトゲが両目に刺さって失明*7。その後、なんやかんやあって盲目のまま「木の実」や「ベリー」を食べて森をさまよっていた王子は偶然、既に男女の双子を出産したラプンツェルと遭遇することに。喜びの涙を流すとともに視力回復という「奇跡」を起こし、王子はラプンツェルと子供たちを連れて国に帰り、幸せに暮らすのでした。めでたしめでたし。(意外にもハッピーエンドで終わった)
――つまり、時期は違いますが、最終的に「塔から出た人物は二人」でした。謎の「王冠」は王子のことを指していたのです。また、ここでも実を食べています。野菜にしても、何か植物を食べることが物語のその後の展開を変えています。植物によって失明もしますね*5。また、必ず「3」がキーワードになっていて、しかも途中で増えることまで共通しています。
「奇跡」も「神による怒り」も同様に「天の力」だと私は解釈します。岩が裂けるってすごいですよね。それがやっぱり塔の裂け方と合致します。物語はいずれも衝撃的な展開と大きな変化がありますし、それは自ら計画したものではありません。なされるがままなったニュアンスがあります。なぜならタイトルが神の家だから。塔の所有者は人間ではなく神であると言っているようなものです。神の家とは反対のイメージがある「悪魔の家」と呼ばれたのは、「悪魔的な人物」である父や父代わり(異教徒も魔法使いもキリスト教からしたら悪です)が、この塔に「無実な人物」、「善の人物」を幽閉したことから来るのかもしれません。図像からは想像できないほど(特にラプンツェルは)ハッピーエンドですし、必ず神の裁きが下されます。「神に似た者」という意味を持つ大天使ミカエルが負(のエネルギー)を断ち切るように、神が悪魔に打ち勝つのです。それこそが、サン=テグジュペリのバオバブのように、このカードの「最も伝えたいところ」かもしれません。でも絵を見ただけでそれは想像できません。衝撃的で強大な神の力を示したいからか、暗くて一見最悪な塔です。無論、サン=テグジュペリの意図はわかりません。タロットのことは知らないかもしれませんし。だけどまあ楽しい関連じゃないですか。
先ほどの、求婚者から遠ざけられた聖バルバラでは「浴室」に窓がありましたが、それはラプンツェルのセクシャルなくだりに繋がりますね。だってなんで浴室なんだよってなりません? 流石に禁欲的な宗教では描けないでしょう。美しい娘を男から隔離したいという独占欲がどちらも「父親(父代わりの人物)」によってなされます。魔法使いに至っては明らかにそれなりの年齢に娘が達したら娶るつもりだったでしょう。そもそも「神の家」は16番目のカードで、直前の15番目の「悪魔」は「拘束」がテーマですから幽閉されたことと繋がる見事なシークエンスです。また、聖バルバラの「脱出」が追放と似ています。捕えられたけど必ず出ることになるのですね。不自由から自由になるのもこのカードの一つのテーマでしょう。このカードのモダンなデッキでは、今までの固定観念や信念を捨てる/手放すという解釈も積極的になされます。悪魔で頂点に達した囚われの思考や感情を解き放つのです。続く17番の「星」は裸体の女性であり、それはまるで解放された美しい娘たちのよう。純粋さが感じられるスッキリとした絵になり、まさに希望の星です。
ところで私はこのラプンツェルが出産した男女の双子が、その後のタロットカード19番の「太陽」に描かれた二人の子どもだったりして......と妄想しました。
4) 私はこのバルバラから、語感が似ている「ヴァルハラ」を連想しました。*6 北欧神話における戦死者の館ですが、オーディン神の館(宮殿)でもあるわけです。つまり、「神の家」です!
5) アダムとイヴのいた楽園のような図像もあります。*7「神の御許」にいたと聞くと、バラの告白の回 [N°40]で紹介した、永遠のさようならに使われる「アデュー」が思い起こさせますね。adieu = to God が語源ですから。また、神のもと、神に守られた場所、それは「神の家」とも言い換えられそうです。「知恵の実」を食べたことで楽園から「追放される」のですから、前述の解釈とも似ています。
いかがでしょうか。うーん、なかなかおもしろい話になりました。個人的にずっと謎だったので、いい機会になりました。
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*1 - ラ・メゾン=デュー フランスにある地域 Wikipedia jp. かわいい
*2 - Maison Dieu, Dover. 凄く立派な建物。イギリスの建築大好き素晴らしい Wikipedia eg
*3 - タロットの図像学に迫った、伊泉龍一・ジューン澁澤 共著『リーディング・ザ・タロット』p.253, 254
→ 聖バルバラ - wiki jp. : 植田重雄『聖バルバラ 殉教の処女』, 『守護聖者: 人になれなかった神々』中公新書, 1991年, pp.78, 80-82, NSID BN0697250X, ISBN 4121010477.
→ ラプンツェル(グリム童話) - wiki jp. : "Children's and Household Tales" (KHM 12), 毎夜は草
*4 - Charlotte-Rose de Caumont de La Force. Persinette - wiki en.: published in the 1968 book, "Les Contes des Contes". Aarne-Thompson type 310.
*5 - "La Foudre" (The Thunderbolt): Jacques Vievil Tarot c.1660, Vandenborre Tarot c.1779
- "The House of the Devil": 呼び名
- "Le Feu du Ciel" (The Fire from Sky): Oswald Wirth Tarot 1887. "Ayin"の文字が: 恥ずかしながらまだ全然ヘブライ語も生命の木も勉強してないんですけど「眼」だそうです! だから失明したんだ。神が見張るという意味で神の眼もあるかな。Woohoo! ゴイゴイスーの最上級カッカクーカッ!だ
*6 - ヴァルハラ、ワルハラ。ドイツ語: Walhalla. 古ノルド語: Valhöll. - wiki jp. エッダの絵が it's a small world みたい。この絵は好きだけどディズニーのそのアトラクションってなんか怖いのはなんでなんだろう。デザインがちょっと不気味じゃね?
*7- 前書 p.257 ミンキアーテ・タロット・パック
✴︎ 読んでないけどいいサイトを見つけました。英語で色んなデッキを紹介しています。link (Tarot Heritage)
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